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ヨーロピアンツアー

「流出」から「逆流」へ─ 強いプレイヤーを生みだす欧州ツアーの構造とは

2018年5月23日(水)午後3:36

2018 BMW PGAチャンピオンシップ<ロレックスシリーズ>
 5/24(木)よりヨーロピアンツアー(欧州ツアー)ロレックスシリーズ第1戦「BMW PGAチャンピオンシップ」が開幕する。最近では宮里優作や谷原秀人、片岡大育など日本人選手も戦いの舞台に選ぶ「欧州ツアー」について、ゴルフチャンネルジャパンアナウンサーで実況を務める小松直行氏に話を伺った。2回目は、欧州ツアーの多層構造と、ロレックスシリーズや新フォーマット大会など積極的な取り組みを行う欧州ツアーについて語っていただいた。
 
EU圏内5億1400万人におよぶ多層構造が「鯉の滝登り」を実現させる

(写真:マット・ウォレス)

 欧州ツアーは公式に3部ツアーまであります。実質的にはその下に各国の国内ツアーやミニツアーが連結されているので、プレイヤーから見れば4部、5部構造といってもいいでしょう。競技レベルによるヒエラルキーになりますが、EU欧州連合域内だけで5億1400万人。アメリカは3億2400万人ですからピラミッドの底辺のひろがりも違います。

 多層構造は、強いプレイヤーを上部へ吸い上げる仕組みに他なりません。「鯉の滝登り」のような短期間の昇格を遂げる天才的プレイヤーも見えやすいし、構造的には上下の組織が試合を共同開催したり、地元枠から下部のプレイヤーが上の試合に出て頭角を現したり、一気に優勝して即昇格の「下克上」まで頻繁に起きています。

 最近の例では、2016年に3部アルプスツアーで5連勝を含む年間6勝をはたし2部チャレンジツアーに昇格するや、たった3試合で欧州ツアーに成り上がったイングランドのマット・ウォレスがいます。2017年5月にチャレンジツアーと欧州ツアーの共同開催だったポルトガルオープンで優勝。つい最近のインドオープンで2勝目をあげました。アメリカのジュリアン・スリも、ポルトガルオープンでウォーレスに敗れた悔しさを晴らすかのように3ヵ月後のメード・イン・デンマークで優勝して即昇格。チャレンジツアーのプレイヤーにも設定されている出場資格から出て見事チャンスをものにしたシンデレラストーリーでした。

 こうしたことが起こりうるのも、欧州ツアーが全体で多層構造で上下の異動が随時可能であるような制度ができているからなのです。
 
他ツアーとの共催が強いプレイヤーを生む
(写真:2018年のボルボチャイナオープンで優勝したアレクサンダー・ビョーク)

 その多層構造は、さらに地球上のほかの組織やプロツアーと重なり合っていることもあげておかなくてはなりません。ヨーロッパといっても欧州連合28カ国にとどまらず東へと開催国を拡げ、トルコ、中東諸国、カザフスタン、ロシアから中国、アジア各国に到達しています。地政学的に欧州と近いアフリカでは90年代から下部ツアーも含めて共同開催の公式戦があるし、北アフリカから中東を網羅するツアーもできています。南米でも2000年以降、散発的ながら公式戦があったし、歴史的につながりの深い東南アジア各国、そしてオセアニアはいうまでもありません。

 そのありさまは、かなりわかりにくくて流動的で、つながっている、重なっている、というよりは、とらえどころなく融合している、といったほうがいいかもしれません。歴史を感じずにはいられませんね。アジアでは中国が潜在力を開花させつつあるなかで国際ツアーの勢力争いも激しく、合従連衡も続いています。80年代の終わりからアジアで公式戦を開催しはじめた欧州ツアーは、アメーバのようにうごめきながらもアジアを離れません。以来、強いプレイヤーがアジアから続々と欧州ツアーに参入し、と同時に欧州ツアーの存在がアジアのゴルフ全体を強くしてきたといえそうです。
 
ロレックスシリーズ実現と開放路線
(写真:2015年欧州ツアープレーヤーアワードでのブルックス・ケプカ)

 欧州ツアーの世界戦略が強いプレイヤーを吸い上げることである一方、欧州ツアーの強いプレイヤーはアメリカへ向かいます。1972年の発足直後から、欧州ツアーは強いプレイヤーの流出を食い止めようとしてきましたが、囲い込もうとすれば逆に欧州ツアーを捨ててアメリカに行ってしまうプレイヤーも出てしまったという歴史があります。しかし、この数年、発想は逆転しているかのようです。かつて欧州ツアーのメンバーには年間13試合を出場義務として、満たせなかった場合、以後数年はメンバーとなれないというペナルティーがありましたが、徐々に緩和されてきたなか、去年の出場義務は5試合、今年は4試合に激減しています。

 このことは、一試合の賞金総額が700万ドル(約7億4000万円)を超える高額賞金の試合が2017年から8試合(ロレックスシリーズ)も実現されたことと抱き合わせの制度変更です。出場義務を課さなくてもプレイヤーは試合に出てくるという状況が出来上がりました。そればかりか、かつての流出方向とは逆の現象も起き始めました。アメリカのプレイヤーが欧州ツアーに本格参戦してくるようになったのです。その先駆けの一人がブルックス・ケプカ。ヨーロッパで2部チャレンジツアーからプロとしてのキャリアをはじめ、欧州ツアーで活躍して世界ランキングをあげたことでWGCやメジャーの大舞台に出られるようになると同時にアメリカに戻って、全米オープン優勝をものにしました。欧州ツアーにとっては成功のモデルケースが生まれていたことも追い風でした。

 一方で、強い欧州プレイヤーが続々と登場する米PGAツアーでは、欧州ツアー自体の存在感が増しています。2年に一度の米欧対抗戦「ライダーカップ」でのヨーロッパ優勢も大きく作用して、文字通り世界のあちこちを転戦するなかで勝負強いプレイヤーを輩出する欧州ツアーのイメージは、アメリカのプレイヤーの憧れを生んでいます。ライダーカップで負けたことで欧州ツアー参戦を決意したパトリック・リードのように、米PGAツアーにない要素を求めてアメリカから欧州ツアーに参戦するという図式は、これからさらに増えるかもしれません。これは画期的なことですね。

 強いプレイヤーがアメリカへ出て行きやすい条件を整えることで、欧州ツアー自体の魅力は深まるということになる。逆転の発想はこの先もうまくいくのかどうか。破れかぶれのようでもありますが、どうなりますやら。
 
欧州ツアーに新機軸を打ち出すCEOキース・ペリー氏
(写真:欧州ツアーCEOのキース・ペリー氏)

 欧州ツアーは賞金をアメリカ並みに高額にしていくことだけを目指してはいません。今年も豪パースでは最終日を6ホールのマッチプレイにするエキサイティングな試合が好評でした。ゴルフの始まりはマッチプレイであり、チャンピオンを決めるには36ホールマッチがふさわしいとかつては考えられていたわけですが、欧州ツアーは伝統にとらわれない楽しみ方を提案して実際に見せてくれています。

 6ホールのマッチプレイイベントとしてはゴルフシックスというエキジビションがありますが、今年は女子も出場ししました。また、一打の制限時間をカウントダウンするショットクロック・マスターズという試合が実現予定。スロープレイ撲滅を早くから実践している欧州ツアーは、米PGAツアーより格段にスロープレイが少ないといえますが、現チーフ・エグゼクティブ、キース・ペリー氏の実行力が光ります。

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(写真:Getty Images)

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